速さを見つけにいく日【2026 ソープボックスダ ービー・ナショナルチーム選考会 神奈川⼤会 前編】

Text/Photo: 蛙田 三也(Sanya Kaeruda) 

 2026 年 4 ⽉ 11 ⽇、12 ⽇の 2 ⽇間、神奈川県・トレッサ横浜で 2026 ソープボックスダービー・ナショナルチーム選考会 神奈川⼤会が開催されました。⽇本で⾏われるソープボックスダービーのナショナルチーム選考会のひとつであり、優勝者にはアメリカ・アクロン⼤会への招待が与えられます。⼤会は、⼟曜に体験⾛⾏を兼ねた練習⾛⾏、⽇曜に本戦という構成で⾏われました。体験⾛⾏が主となる⼟曜⽇、初めてソープボックスカーに乗る⼦どもたちが歓声を上げるすぐ横で、翌⽇のレースに挑むパイロットたちは、何本も坂を下りながら速さを探っていました。⾛るごとにタイムは向上し、やがて収束し始める。その様⼦は、この競技が決して運任せではなく、⾛りを合わせ込むことで速くなる競技であることを物語っていました。

繰り返しの中で見せる三者三様のアプローチ

 午前中は、各選⼿にとって探る時間だったと⾔えるでしょう。久しぶりに乗る⾞と路⾯の感触を、⼀つずつ確かめていきます。午後になると流れが変わりました。最初に存在感を⽰したのは松本こころさん。11.3 秒台を並べる⾼い精度のランで、この⽇の基準をまず打ち⽴てました。⼀発だけではなく、何度⾛っても近いタイムを刻む。その再現性に強さがありました。フラダンスにも取り組む松本さんですが、この再現性は、フラダンスで鍛えられた体幹、そしてそれによるドライビングポジションの安定感に由来するものと推測されます。⾛⾏後、松本さんは「去年は⼀番下から 6 番⽬で悔しかった」「明⽇は絶対優勝してアメリカの⼤会に出たい」とコメント。まっすぐな⾔葉ですが、その意志は⾛りにも表れていました。精度の⾼いランには、確かな理由がありました。

 それを追うように、北村成さんも調⼦を上げていきます。⼀昨年この⼤会でチャンピオンを獲得した兄をもつ北村さんは、⾛るたびに周囲からアドバイスを受け、それを次のランで試しながらタイムを縮めていくタイプ。柔軟に対応しながら⾛りを仕上げていく姿が印象的でした。⾛⾏後の第⼀声は「楽しかった」。この⼀⾔は、北村さんの明るい性格と、この競技らしさをよく表していました。勝負でありながら、まずコースを攻める⾯⽩さがある。ただその⼀⽅で、狙っていた 10 秒台に届かなかったことには悔しさものぞかせます。楽しさと負けたくなさ、その両⽅が同居していました。

 そして⼟曜トップで締めたのが、昨年王者の⼭⽥翔太郎さんです。序盤は静かな⽴ち上がりでしたが、⾛るごとにタイムを削り、最終的に 11.071 秒を記録。しっかり⾸位で終えました。親御さんが「スロースターターで、徐々に上げていくタイプ」と話した通り、少しずつ仕上げ、最後にまとめる。派⼿さより完成度で⾒せる、王者らしい⾛りでした。興味深かったのは、どの選⼿も⾛るたびにタイムを上げ、その先である程度まとまり始めていたことです。偶然速い⼀本が出るのではなく、狙って近づいていく。⼟曜に⾒えていたのは、タイム差だけではありません。それぞれ異なるやり⽅で、“速さを⾒つけていった”のです。

タイムが揃いはじめる理由

 こうして⾒ると、ソープボックスカーは「坂を下るだけ」の競技ではありません。むしろ、どれだけ損失なく転がれるかを競う競技です。重⼒で得られるエネルギーを、どれだけそのまま速度へ変換できるか。その途中で⽣じるロスを、どこまで減らせるか。それが勝負になります。そのため、パイロットは⾛るたびに細かな調整を重ねていきます。まずはライン。凹凸のあるショッピングモールの床に樹脂製の薄いパネルを乗せたコースは、床の凹凸を残し微妙なアンジュレーションを持っています。そのコースのどこを通るかで、修正舵の量が変わります。⼩さな差でも、積み重なれば効いてくる。次にハンドルの使い⽅。強く握りすぎると路⾯⼊⼒を受け⽌めきれず、かえって抵抗になることもある。⼀⽅で、うまくいなせれば転がりは良くなる。ここにも技術があります。

 そして乗⾞姿勢。頭の位置、お尻の位置、重⼼の置き⽅。⾒た⽬には⼩さな違いでも、タイムには影響する。お尻の位置を下げることは、スタートの斜⾯に沿って重⼼位置を競り上がることを意味し、スタート時の位置エネルギーを⾼める⽅向へと作⽤します。同時に、お尻を後ろに下げることで腰と背中の屈曲が強くなり、結果的に⾞体からはみ出る肩の⾯積が⼩さくなり、頭の位置も低くなります。これは、前⾯投影⾯積を下げることへとつながり、空気抵抗を下げる⽅向へ作⽤します。ただし、⾞体のスペースは限られ、パイロットの屈曲にも限界がある。つまり最終的には、各パラメータの限界値の中で、そのパイロットと⾞体の理論値、すなわち限界のタイムが決まります。パイロットたちは、この理論値にいかに近づけるかという挑戦をしているとも⾔えるのです。

より難度の上がる日曜に向けて

 ⼟曜の練習⾛⾏で、⾃らのドライビングポジションとコースの感触を確かめた選⼿たちですが、⽇曜は条件が少し変わります。体験⾛⾏も兼ねる⼟曜はスタート位置が低く、距離も短い。⼀⽅、本戦となる⽇曜は、より⾼い位置から⻑い距離を⾛ることになります。ここで興味深いのは、距離が伸びると⼩さなミスが⼤きく効いてくること。スタートのわずかな乱れ、ほんの少しのライン修正。短い距離では⽬⽴たなくても、⻑い距離ではタイムロスになる。つまり、この競技は速いだけでは勝てない。誤差を⼤きくしないこともまた重要になります。

 その意味で、⼟曜の⾛⾏は単なる練習ではありませんでした。松本さんは精度で挑み、北村さんは⾛りながら伸ばし、⼭⽥さんは最後にまとめた。それぞれ異なるやり⽅で、理論値に近づこうとしていたのです。⼦どもたちが笑いながら坂を下る同じ場所で、コンマ01 秒を削る真剣勝負がある。その両⽅が同時に存在していることこそ、ソープボックスダービーの⾯⽩さなのだと感じさせる⼟曜⽇でした。