初の埼玉大会、0.1秒以下の超接戦を制したのは!【ソープボックスダービー埼玉大会2026】

Text/Photo: 蛙田 三也(Sanya Kaeruda)

2026年5月23日(土)、埼玉県川口市のイオンモール川口にてソープボックスダービー埼玉大会2026が初開催されました。4月11日・12日の神奈川大会に続き、今年2回目となる世界大会出場をかけた重要な選考会です。練習走行を含めて2日間にわたり開催された神奈川大会に対し、今回の埼玉大会は1日限りのタイトなスケジュール。午前中に体験走行と練習走行、午後にはさらなる練習走行と本番のレースが凝縮して行われました。

埼玉での開催は今回が初ということもあり、当初は「最低遂行人数に達するか」という懸念もありましたが、蓋を開けてみれば当日参加の選手も多く、最終的には11名がエントリー。中には神奈川大会から連戦で挑む選手も顔を揃え、白熱したレースが展開されました。

フラットコース、勝負を分けるコース特性

まずは、今大会の趨勢を決定づける「会場の特性」について、神奈川大会との違いを押さえておきたいところです。石畳風の床面にプラ板を敷き詰めてコースが構築されていた神奈川大会に対し、今回のイオンモール川口は完全な平坦路。勾配やアンジュレーション(路面のうねり)が一切ない、極めてフラットであることが特徴です。

さらに注目すべきは、発車台およびスロープの「継ぎ目剛性」が改善された点にあります。発車台は2本のアルミラダーを途中で接合し、そこからコースへ接地する木製スロープへと繋ぐ構造になっています。この継ぎ目には下から支えが入れられますが、この支持材が撓(たわ)むと、タイヤが通過する際にわずかな沈み込みが生じて走行抵抗となってしまいます。しかし今回は、この部分の剛性が強化されたことで神奈川大会に比べて抵抗が減り、スタート時における車体の安定性も大きく向上しました。

これらが意味するのは、「神奈川大会よりも車速の落ち込みが小さくなり、操作のシビアさが増した」ということです。ハイスピードになればなるほど、たとえ同じ微舵であっても、その間にマシンが動く量や向きを変える角度は大きくなります。このシビアなコンディションにパイロットたちはどう対応したのか、午後の練習走行から振り返っていきます。

上位に入る鍵は13秒台

今回、地元・埼玉からのエントリーとなった大川 優(おおかわ ゆう)さん。スタート位置にマシンがセットされてから走り出す瞬間までは緊張からか表情が固い印象もありましたが、いざ発進すると鋭い走りを見せ、13秒台突入まであと一歩に迫る14.264秒をマーク。「最初は怖かったけど、楽しかった」「1位になりたい」とコメントを残してくれました。大川さんのタイムが示す通り、今回上位に入る鍵は「13秒台に入れられるか」という点に絞られました。この練習走行で早くも13秒台に滑り込んできたパイロットは5名。その中で練習走行のトップタイムとなる13.719秒を叩き出したのは川上 紗弥(かわかみ さや)さんです。これに、神奈川大会の実績を持つ今 結心(こん ゆうみ)さん、松本 こころ(まつもと こころ)さんらも追従。同じく13秒台の好タイムをマークし、経験者としての意地を見せます。

迎えた第1レース。14.086秒と、惜しくも13秒台までわずか0.086秒届かなかったのは、大川さん同様に埼玉からエントリーした植村 千尋(うえむら ちひろ)さんです。植村さんは練習走行でも14.082秒をマークしており、高い再現性を見せたものの、あと一歩のところで悔しさを滲ませました。植村さんは「(タイムが届かなかったことに対して)少し頭が高かった」「次のレースでは、目線を低くして走りたい」とコメントし、次戦への課題を明確に見据えていました。

ここで見事に13秒台へと突入したのは4名。その中で第1レースのトップタイムを記録したのは、13.773秒をマークした橋本 悠生さんでした。このターゲットタイムを先頭に、わずか0.2秒以内に残りの3名がひしめき合うという、息をのむような大接戦が展開されました。暫定首位に立った橋本 悠生(はしもと ゆうき)さんは、「(第1レースで)1位になれてよかったです」「第2レースでもアメリカ行けるように頑張りたい」「体を寝かせてみたら速くなって、練習走行は15秒だったけど、13秒まで上がった」「第2レースでも頭を低くして、あまり高くならないようにしたい」と勝因を分析。この時点では暫定1位の橋本 悠生さんに対し、ライバルたちは第2レースでこの13.773秒を上回ることを要求されます。しかし、各パイロットのタイム傾向を見ると、練習走行から第1レースにいたるまで13.7秒台がトップタイム。つまり、橋本さんの残した記録は完璧に近く、これを上回るのは至難の業と思われました。

二転三転のレース展開

運命の第2レース。練習走行、第1レースと14.2秒台を維持していた大川さんが、ここで一気にタイムを縮め、13.921秒をマーク。見事に13秒台という一つの大きなハードルをクリアしてきました。同様に、同じく埼玉から参加の植村さんもここで13.866秒という、第1レースのトップタイムまであと0.093秒に迫る快走を披露します。両選手ともに初参戦ながら、スタッフのアドバイスを的確に吸収し、練習走行から第1レース、第2レースへと確実にステップアップしてタイムを上げてきました。レース後、大川さんは「真っ直ぐ走るのが難しかった」「最後は楽しい気持ちだった」、植村さんは「次があったら、1位になってみたい」と、それぞれ充実感のあるコメントを残しました。

一方、第1レーストップの橋本さんは第2レースを13.824秒とし、自己ベスト更新とはならず。第1レースのタイムで首位を防衛する形となりました。しかし、ここで戦況を揺るがす新たな伏兵が登場します。5番目に出走した濱端 那桜(はまばた なお)さんです。練習走行では14秒台後半、第1レースは15秒台と、ここまでトップ争いにはなかなか届かない展開が続いていた濱端さん。しかし、この大一番で完璧なアタックを見せ、13.771秒をマークしたのです。なんと、それまでの暫定トップだった橋本さんのタイムをわずか1000分の2秒上回り、劇的な逆転を果たしました。この極限のタイム合戦に、参加者のみならずスタッフまでもがタイムランキングを二度見、三度見するほど。この微細な差でのタイム更新は、いかに13.7秒台のランがこの日の限界に近いものであったかを物語っています。濱端さんの完璧なランにより、このまま優勝が決まるかと思われました。

3度目の正直、リベンジ達成

しかし、最後まで何が起こるか分からないのがレースの醍醐味です。最終盤、誰も予想し得なかった衝撃的なドラマが待っていました。すべてを引っ繰り返したのは、神奈川大会から引き続き参戦していた今さんです。

今さんは、昨年の神奈川大会で2位に泣き、リベンジに燃えて挑んだ今年の神奈川大会でも、優勝に手の届くポジションで戦うことができていませんでした。そんな溢れるほどの悔しさを抱えたまま、この埼玉大会へエントリー。これまでの経験を最大限に活かして練習走行から好タイムをマークし、この第2レースを迎えました。

シグナルが灯り、発車から滑らかに車速を維持。わずかにラインが乱れる場面もありましたが、それも最小限の修正に留め、流れるようにゴールへと突き進みました。記録は、驚異の13.685秒。本レースを通じて唯一となる13.6秒台を叩き出し、ライバルたちを圧倒する劇的な逆転優勝を飾りました。レース後の今 結心さんは、「去年の神奈川の大会で2位になって悔しかったので、今回1位を取れて嬉しかったです」「タイムが出て嬉しかったです」「ちょっとハンドル切っちゃったけど、最初がすごく速い感じがしたのでよかった」「アメリカでも勝てるように、空気抵抗が小さくなるように走りたい」と晴れやかな表情で語り、自身の走りを極めて高い解像度で分析している姿が非常に印象的でした。我が子の快挙を見届けた親御さんは、「普段表情に感情を出さないことが多いですが、優勝した時にはだいぶ喜んでいました」「アメリカでも色々なことを経験できるようになって、貴重な機会をいただけて嬉しく思います」「これからもいろんなことにチャレンジして、いろんな思いをすると思うけど、それを経験して成長してほしいなと思います」とコメント。終日を通して、今さんの走りを最後のウイニングランにいたるまで温かく、そして真剣に見つめていた親御さんの姿もまた、胸を打つものがありました。

初開催の課題と手応え

大会を終え、競技責任者の小木曽さんは、「今さんは、右のパイプに触ってしまって、第2レースに向けてレクチャしたことが生きていて、本人も喜んでいてよかった」「初参加の子が多く、レクチャが上手く伝えられないこともあったが、また次乗ってもらえれば、わかることも増えると思うので、引き続き参加してほしいと思う」と、子どもたちの成長に目を細めました。

また、日本ソープボックスダービー協会の山本事務局長は、「今さんは3回目のチャレンジで、そのチャレンジが報われたと感じている」「(初の埼玉開催について)常々『1年に1人のお子さんをアメリカに送っていては、50年たっても50人しか世界大会を経験させてあげられない』という思いがあって、今年、2人の代表選手を引率できることを嬉しく思う」「一方で、ソープボックスダービーの認知が得られていないのも事実で、それを痛感した」「そんな中でも、11名のエントリーがあったことはよかった」「当日参加の子の中には、悔しくて涙を流している子もいて、当日の体験走行からレースの短い時間の中でも真剣に向き合っている姿があって、挑戦の中で何か学びがあったと思うとすごく嬉しく思う」「初めて埼玉で開催したが、これを続けていかないといけない」「今年ここでソープボックスダービーを見てくれたお子さんたちが、来年は走ってくれるといいなと思う」と熱く語り、今大会の総括と今後の展望を締めくくりました。

冒頭で述べた通り、「フラットで速度が乗りやすいコース」だからこそ、一瞬のミスも許されないシビアな走りが要求されるレースとなりました。1日開催という非常にタイトなスケジュールの中で、さまざまな技術やアドバイスを瞬時に吸収し、気持ちを整えてレースに臨んだ子どもたち。彼らの高い柔軟性、そして競技へ真っ直ぐに向き合う純粋さと熱意が、イオンモール川口を大いに沸かせた素晴らしい一戦となりました。